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ある乳がん患者が見た医療ミスの報道 [がん関連]

 

*以下は、乳がんに関係した方でないとわからない内容を含みます。


乳がんでは時々耳にする左右取り違え事件のニュースです。

被害に遭われた女性はとてもお気の毒だと思います。
「精神的苦痛は大きい」と感じられているのも、同じ乳がん患者として、
ご心痛お察しいたします。
 

毎日新聞社の記事の抜粋--------
提訴:がん治療で「乳房左右間違え」放射線照射 横浜の病院に賠償求め /神奈川
 ◇カルテミス
 横浜南共済病院(横浜市金沢区)で乳がんの放射線治療を受けた横浜市の40代 の主婦が、カルテの記載ミスで左右の乳房を間違えて照射され苦痛を受けたとして17日、病院を運営する国家公務員共済組合連合会(東京)と放射線科医師に 対し、約3100万円の賠償を求めて横浜地裁に提訴した。
 訴状によると、女性は08年8月、左乳がんの放射線治療で、医師がカルテに 「右」と誤記したため、正常な右乳房に16回照射され吐き気などを覚えた。誤照射量は年間許容被爆量の3万2000倍に当たる32グレイで、女性側は「長 い年月を経てがんなどになる危険性が極めて高い」と主張している。
 会見した女性によると、左右どちらに照射されているのかは分からない状態で「病院側に『大したことはない』と言われ、年1度の検査も断られた。体にどんな影響があるのか不安」と話した。



共同通信の記事の一部抜粋--------
病院で左乳房のがんと診断され、手術。再発を防ぐための放射線治療の担当医が、左右の乳房を取り違えた治療を放射線技師に指示したため、同年8~9月、誤って右乳房に放射線照射を受けた。



[放射線治療のイメージ画像](この事件とは関係ありません)
LinearAccelerator160.jpg









このニュース記事を読んで疑問に思ったことや感想がいくつかあります。

1. 「右」「左」という字は、似ているので間違えやすいと思ったこと。
間違えにくい"R","L"や、"みぎ"、"ひだり"という表記ではだめなのかな?


2. 「誤照射量は年間許容被爆量の3万2000倍に当たる32グレイ」と、書いてあると、 「ものすごくとんでもない量を間違って照射されてしまった」と誤解されやすいこと。
乳房温存後の放射線治療では50~60グレイが標準の照射量です。
このとき通常は、左右を間違えないで患側に照射されたとしても、健康な細胞も同時に被爆しています。
(手術後に残ったかもしれない目には見えないがん細胞を狙って、ピンポイントで照射する技術は今のところ、乳がん手術後の標準的な放射線療法としてはありません。)

ちなみに、ふじくろは50グレイしました。


3. 「左右どちらに照射されているのかは分からない状態」
本当にこういう主張を患者さんがしているとは、にわかに信じがたいです。

なぜなら...

術後の放射線治療では、どこに照射するかの位置決めを慎重に行うのが普通です。
技師さんが患者の体にマーカーペンのようなもので、印を書いてくれます。
「お風呂でゴシゴシすると消えてしまうから気をつけて」などとアドバイスされたりします。

確かに照射中は痛みも何も感じないので、どちらに照射されているのかはわかりませんが、
体にはマジックで書いたようなはっきりとした印がありますから、患者さん本人はどちらがターゲットなのかはっきりとわかるはずです。


アバウトなマスコミの記事から、考えられる限りの可能性
a. 患者さんに知られないうちに目に見えない印を体につける技術があって、患者さん自身も逆側に印をつけられたことが分からなかった?
b. そもそも印もつけないで照射していた?
c. 患者さんが視覚障害を持っていたので、どこに印をつけられたのか分からなかった?
d. 左を手術したのに右に印を付けられたことを患者さん自身は知っていたけれども、
その右の印が照射位置を意味するものとは知らなかった?
e. 患者さんの正確な言葉ではなく、記者が勘違いをして記事を書いてしまった?


a.のような技術は聞いたことがないです。
b.のようなことをする病院が本当にあるのでしょうか?
ふじくろが知らないだけかもしれませんけど...
それで、c.はおかしいですね。
だってペンで描く時に、体に感じますから分かるはずです。
d.だとすれば、とても不幸な事件だと思います。
e.は許せません。
病気に関する記事は、慎重に書いていただきたいものです。




カルテの記載ミスなどは、あってはならないことだと思いますが、
実際は時々あります。
病院側を擁護する気はありません。
でも、人間のすることですからミスが発生してしまうのも事実だと思います。


本当に病院側が『大したことはない』と発言したのなら、これは問題だと思います。
「大丈夫だよ〜、大きな問題にはならないから安心してね。」というニュアンスでおっしゃったのなら良いのですが...

確かに32グレイの被爆は、生死につながるようなことではないと思います。
もしそうなら標準の50~60グレイの治療を受けた乳がん患者さんたちは、皆たいへんなことになりますから。

32グレイの照射が医学的にドウコウというよりも、
木で鼻をくくったような言い方や態度(ふじくろの勝手な想像です)が、患者さんとの間に決定的な溝を作ってしまったように感じます。

もしふじくろなら
「自分たちが間違えておいて『大したことはない』っていう言い方はないんじゃないの?」
「乳房痛やひりひり痛い火傷に悩まされることだって十分辛いのよ!」
と、目の前の医療者に言ってしまうかもしれません。



でも、一番問題だと感じるのは、マスコミの報道の仕方です。
医療側を悪者にして患者側の味方のフリをしているような、
そんな記事が時々目につきます。
ジャーナリストさんたちが一生懸命お仕事しているのは分かっているつもりです。

医療側を悪く報道、もっといえば糾弾するかのような報道を続ければ続けるほど、
医療側と患者側の溝は深まる一方です。
対立構造の中では、両者はお互い心をおり、傷つき、疲労困憊していくばかりです。

医療ミスはミスとして「何が問題だったのか」きちんと報道して欲しいです。
そうすれば、
医療者は医療側の立場から対応策を考えられると思いますし、
患者は患者の立場から対応策を考えられます。

ふじくろは乳がん患者なので、こんなふうに考えます。
たとえば、術後の放射線治療の詳細など、もっと情報を持っていれば、
他の患者さんと自分が違うことをされているのに気がつくかもしれません。

先生からの説明が簡素すぎてよくわからず、がっかりしても大丈夫です。
ほかに打つ手がありますから。(*'▽'*)b
患者さん同士の待合室での会話やネット、患者会、図書館などなど。
幸いなことに乳がん情報は、他の癌に比べてダントツに多い恵まれた環境です。



そして報道関係者の皆様には、対立の構図を描かない、冷静でアカデミックな報道を切望します。
マスコミの皆さんも、より良い医療環境を目指して、一緒に進んでいきませんか。(^^)





多くの医療者、患者が信頼しあって病気に立ち向かえますように....
そんな気持ちを込めてこの記事を書きました。





関連する過去記事
『乳がん体験記(7) 放射線治療』
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コメント 21

ふじくろ

>>miopapaさん
>>ぽんこさん
>>keykunさん
>>向日葵さん
niceありがとうございました。
by ふじくろ (2010-02-20 01:05) 

manny

公にされることは、本当に正確な事実であって欲しいものですね。
テレビで乳がんを話題にした番組などで、”早期発見すれば治りますから”的な簡単な言葉にがっかりさせられることがよくあります。
by manny (2010-02-20 10:10) 

ふじくろ

>>mannyさん
「簡単な言葉」...本当にそうですよね、ふじくろも違和感を覚えることがあります。
TV番組を見て「早期発見のために検診しよう」と思われる方が増えれば良いなと思いますけど、
早期発見そのものが簡単ではないということが、あまり知られていない現状ですものね。
by ふじくろ (2010-02-20 19:30) 

minaka.707

そんな事があったんですね。。知りませんでした。
ふじくろさんのおっしゃるように、右・左の表記をわかりやすくしたりなどの改善はあったほうが良さそうですよね。
カルテミスでも患者との確認作業とかしていれば、間違いは防げたのではないかと思いますが、詳しい事は分からないから何ともモヤモヤです。。
私は放射線の時に技師の方にカルテ用にとデジカメで顔と胸の写真を撮られましたが、
撮るものだと思って許可しましたが、他の患者さんもすんなり撮ったのかなぁ?などと今でも思います。
ふじくろさんの記事など他の方の記事などとても頼りにさせてもらってます(^^)
by minaka.707 (2010-02-21 20:09) 

So☆me

私も知りませんでしたが、ふじくろさんと同様に、疑問に思う所ばかりでした。
放射線技師も見れば解るだろうに・・・と思うけど、流れ作業で書類だけが全て
なのかしらね(^^;)本人も32Gry受けてて何故気がつかなかったのかしら。。

ともあれ、私も病院で一緒の患者さんは居ませんが、ふじくろさんなど経験者の
記事を読む事や、自分の病気について、知識をつけておく事は大事なんだと思い
ましたよぅ。
by So☆me (2010-02-22 12:25) 

ふじくろ

>>minaka.707さん
>患者との確認作業
おっしゃる通りですよね。
「手術したのはどちら側ですか?」などと、
照射前に確認されていれば、間違いを防げたような気がします。
本当に残念です。

ふじくろが放射線治療した病院では、写真撮影はしていませんでした。
(10年前のことです)
昨年転院した病院では、放射線治療はしていませんけど、
CTのときも必ず口頭で名前確認をしていました。
目の前の患者とカルテで顔を一致させるほど、みなかさんの病院は危機意識があってきちんとした病院なのですね。
あ、でも写真を撮られることに抵抗があれば、率直に申し出て拒否されたほうがいいと思いますけどね。(^^)
ふじくろも、いつもみなかさんのところで勉強させていただいてます。



>>So☆meさん
>放射線技師も見れば解る
そうですよね。
技師さんが手術痕を目視して確認するようにしていれば、
防げたような気もしますね。
この事件にしてももっと詳細がわかれば、ほかの患者さんが同じような目に遭わない方法が見えてくると思うんですけど...
残念ですね。

ほかの患者さんの生の声はとても参考になりますよね。
ふじくろも10年間多くの方の情報に、励まされ参考にさせていただきました。
もちろんSo☆meさんのブログもいつも参考にさせていただいてますよ〜。(^^)

by ふじくろ (2010-02-22 16:51) 

ふじくろ

>>クローヴさん
>>ぼんぼちぼちぼちさん
niceありがとうございました。
by ふじくろ (2010-02-23 23:40) 

hanagoat

この病院での医療ミスで考えられることが、もうひとつ考えられます。普通の病院では、まず考えられない事ですが。治療の説明無しで治療する事が多く、もしかしたら、治療の説明を求めても忙しそうにして、返答せずに患者自信が、治療について何も知らされずに治療が行われたと言う事もありうる。また、技師も医師も異性だと困る部位に関して、この病院は、きちんと確認もしないで、患者に確認させる傾向が強い。医療ミスをすると、何も応対しなくなり、すべての診察も拒まれ、追い出すようにする傾向がある。関連病院もかかれないようになっている場合もあり。
関連病院しかない地域であり、医療ミス後の対応の悪さもあったと思われますよ。
by hanagoat (2010-02-26 23:24) 

ふじくろ

>>hanagoatさん
はじめまして、こんにちわ。
コメントを戴きましてありがとうございます。

可能性としては「治療の説明なしで治療」もありますね。
詳細が報道されていないので、よくわかりませんので、
あらゆる可能性が考えられます。

この病院に行ったことがないので、報道に書かれていたこと以外はまったくわかりません。
病院名が具体的に報道されていますので、
あまり憶測で決めつけないように、慎重に見守りたいと考えています。

医療ミス後の対応は医療者にとっても患者にとっても、最大限重要なことだと思います。
両者が納得いくまで冷静で十分なコミュニケーションをとることが、
不可欠ではないかと考えます。

by ふじくろ (2010-02-28 02:10) 

同じ事故にあいました。

私の妻も同じミスをされ、現在ショックで泣いています。これからの対応策 などどのようにしたらいいのか?不安です。アドバイスお願いできたら心強いです。
by 同じ事故にあいました。 (2014-07-19 13:49) 

ふじくろ

> 同じ事故にあいました。さん

え、そうなのですか..少し驚いています。
それは大変でしたね...
コメント欄のやり取りではあまりお力になれないとおもいますが、具体的に知りたいことを書いていただいたら「それはここのサイトに詳しい説明がありました」などと、わかる範囲で返信します。
by ふじくろ (2014-07-19 14:13) 

同じ事故にあいました。

お返事ありがとうございました。
今年の1月に部分切除しました。その後放射線治療治療に入り五週間受けました。そして昨日、検査結果で担当医師から間違えて健康なむねに放射線をあてていとという事で妻に謝罪があったそうです。近似中に病院から連絡があるそうです。昨日の時点では医師がミスを認めているとのことでした。その結果、妻の肺に異常があるみたいです。
by 同じ事故にあいました。 (2014-07-19 20:41) 

ふじくろ

>同じ事故にあいました。 さん

>>その結果、妻の肺に異常があるみたいです。

ええ!?それではとても心配ですよね。

その異常の内容がわかりませんし医療者でもないので、なんとも申し上げられませんが、「もし自分なら」病院からの説明を聞いた上で「現在、肺はどんな状況なのか? なぜ肺に異常があるのか? 今後予測できる体への影響は何か?」を詳しく聞いて納得するまで話し合うと思います。
(レントゲンなどの画像も含めて)それまでの全ての検査結果のコピーを請求します。
そして納得できてもできなくても、その結果と経緯を書いたメモを持って他の病院で意見を求めると思います。
(あくまでも事情の詳細を知らない他人の意見ですが..)

裁判に発展するかもしれない案件については、他の医療者は口が重いと思いますが、かといって放置はできませんので、これからの体へのリスクを最大限少なくする方法を一生懸命考えると思います。


ちなみにふじくろが放射線治療を受けた時の説明は「肺に放射線がなるべくかからないように、角度を調整して(肺をかすめるような角度で)照射します」ということでした。
by ふじくろ (2014-07-20 06:50) 

同じ事故にあいました。

今日病院から連絡がありました。私の出張が多いので来月の6日に説明したいとのことでした。どうなるか?わかりませんが冷静に対応したいと思います。相手は県立病院なのではっきり言って、期待はできませんが、妻のために頑張ります。でもあんまりですね。
by 同じ事故にあいました。 (2014-07-25 21:15) 

ふじくろ

>> 同じ事故にあいました。さん
そうですか、大きな問題でなければいいですね。でも患者にとっては小さな問題でも気になると思いますので、ご家族の支援は心強いでしょうね。

本当に「あんまり」な出来事ですが、最前の結果となりますようお祈り申し上げます。
by ふじくろ (2014-07-26 00:39) 

同じ事故にあいました。

ご無沙汰していました。
今日、病院に行って説明を受けて来ました。結論から言うと今回の放射線ミスを全て病院側のミスである事を認めました。こちらには、全くの落ち度もなく、何を言われても仕方がないとの事でした。ただただお詫びするしかないですと言われました。こちらとしては、今後の不安やこれからの再発に対しての意見を伝えましたが、納得出来なければ訴訟も考えることも伝えました。妻にはとにかく治療に専念してもらい完治してほしいと願っています。しかし今でもあまりにも単純なミスで憤りを感じます。とりあえず、これからの病院から誠意ある返事を待つばかりです。
by 同じ事故にあいました。 (2014-08-06 18:32) 

ふじくろ

>>同じ事故にあいました。 さん
肺がなんともなければいいですね。
患側の放射線はこれからでしょうか、治療がうまくいくといいですね。
全く大きなお世話ですが、訴訟のお話は(本当にその時が来るまで)されないほうが良いと思います。
これから長く続く治療の旅路ですから、医療者と共に歩む気持ちがないと患者本人が苦しくなってしまいます。(術後の転院は一般的に困難です)
ご健闘をお祈りしています。
by ふじくろ (2014-08-06 20:31) 

同じ事故にあいました。

ありがとうございます。そうですね、これからの治療を考えると、慎重に考えていきたいと思います。肺の方は今のところ炎症程度とこなので消えるとのことでしたので少し安心しました。明日から患部への放射線治療と抗がん剤治療のダブルがはじまります。勿論放射線治療は無料ですが抗がん剤治療は支払ます。妻には苦労かけますが頑張ってほしいと思います。私もこうして悩みを聞いていただき本当に感謝しています、ありがとうございます。また、何かあったら連絡します。
by 同じ事故にあいました。 (2014-08-07 07:09) 

ふじくろ

>>同じ事故にあいました。 さん

>肺の方は今のところ炎症程度とこなので消えるとのこと

あぁ、よかったですね。私も安心しました。


抗がん剤治療はご存知の通り、吐き気やその他の副作用に悩まされると思います。
私も味覚が変わったり音や匂いに敏感になったりしましたけど、悪阻と似たような状況なので生活の工夫で乗り切れないことはないと思います。
奥様の副作用が軽く済むといいですね。治療がうまくいきますように..


既にご存知かもしれませんが、下記のリンクのサイト・書籍がとても役に立つと思います。ご参考までに。

患者さんのための乳がん診療ガイドライン 日本乳癌学会
http://jbcsfpguideline.jp

『患者さんのための乳がん診療ガイドライン』の読み方・使い方 日本乳癌学会
http://jbcsfpguideline.jp/use.html

患者さんのための乳がん診療ガイドライン 2014年版 単行本 日本乳癌学会編集
http://www.amazon.co.jp/2014/dp/4307203291/ref=dp_ob_title_bk
by ふじくろ (2014-08-07 10:00) 

同じ事故にあいました。

お久しぶりですね。
妻の放射線治療終りました。
これから具体的に話し合いがあると思います。
所で、お聞きしたのですが、裁判の結果どうなったのでしょうか?参考にしたいです。
by 同じ事故にあいました。 (2014-08-31 20:35) 

ふじくろ

>>同じ事故にあいました。さん
放射線治療が無事に終わってよかったですね。

記事にある事件は毎日新聞社の記事の抜粋なので、残念ながらそれ以上のことは存じていません。
by ふじくろ (2014-08-31 23:12) 

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