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「○○が”がん”に効く」のからくり [がん関連]





TwitterやWebブラウジングしていますとがんに関するひどい情報がたくさん飛び込んできます。
今までなるべく気にしないようにしていましたが、あまりの状況に看過できませんでしたので記事を書きました。
2013.07.19 




がんの世界では、多くのがんに標準治療というものがあって同じ種類のがんならば大体同じような治療になってきましたね。

私は乳がん患者ですが、もう10年以上前に標準治療の乳房切除(手術)と抗がん剤治療とホルモン療法を受けました。

標準治療というのは「今までの経験・統計からこの治療法が最も効果があると思われる」という治療法です。
これは誰か一人の医療者・研究者が決めたことではなく、多くの試験をしてみて「今のところだいたいこうだろう」というようなコンセンサス(共通した認識)が世界中の専門家たちの間で共有されています。

でもネットで”乳がん 治療”などと検索すると、怪しい治療法が山のように出てきます。

これらはほぼ間違いなくデタラメです。

よくあるのは「○○を飲み始めて半年ですっかりがんが消失しました。ステージ4からの奇跡の生還!」などというものです。

それでその○○という薬まがいのものの説明を読んでみると「○○という成分ががんを縮小させるという論文があります!」と誇らしげに掲載されています。

その論文というものをさらに詳しく調べてみます。
ひどいときにはそれは論文ではなく「個人のブログ記事」だったりします。(^◇^;)
また、「XXXXがん研究所」などといかにもそれらしい名称がつけられた関係団体内でのみ発表されたローカルな論文らしき文章のときもあります。

これらのブログ記事・論文(様のもの)などはまったく根拠が無いに等しいと思います。

ただ、世界的に権威のある医学誌に発表された本物の論文のときもあります。
でもここに落とし穴があります。

正式な論文が発表されているのになぜデタラメなのでしょう?

それは彼らが主張する「○○が効く」の根拠になっている論文が臨床試験の結果ではなく基礎研究の結果だからです。

たとえば「ナオルワカメというワカメのガンチイサクナールという成分ががんを縮小させた」という論文が実際にあったとします。

*ナオルワカメ:架空の植物
*ガンチイサクナール:架空の成分

ここに目をつけた業者がこのワカメを粉にして売り出すとします。
そしてがんに効くと宣伝します。
実際には直接「効く」などとすると薬事法に引っかかって逮捕されかねないので「がんに効いたという体験談」を載せます。
もちろん根拠にしている論文も引用します。

全く何も知らないかたがご覧になれば「あぁ、この薬でがんが治るのね」と思ってしまうかもしれません。

「専門家が実験して確かめたのだから嘘ではないでしょう。有名な医学誌にも発表されたのでしょう?」と思われるかたもいらっしゃるかもしれません。

ここが大きな落とし穴なのです。

すべての薬は、一つの実験や試験でこの世に出ることはないです。
試験管やシャーレの実験でみつかった数千〜一万数千の”可能性のある”成分・物質のなかで本物の薬になるのはたった1つだけです。

少し古いですが厚労省の医薬品産業ビジョンの概要という資料があります。 http://www.mhlw.go.jp/shingi/2002/08/dl/s0830-1b1.pdf
その9ページに【新薬開発に要する期間と成功率】の図があります。
がんの薬に特化した資料ではありませんが、一般的なことなのでがんの薬にも当てはまります。

出典:医薬品産業ビジョンの概要 http://www.mhlw.go.jp/shingi/2002/08/dl/s0830-1b1.pdf


要約しますと「”効くかもしれない成分・物質”の候補が11,000個あった場合、最終的に薬となって治療に使えるものは1つしか残りませんよ」ということです。

わかりやすく10,000個に1つということにして図を描いてみました。



なぜこんなに減ってしまうのでしょうか?
それは「効くと思って動物で試したが、効果がなかった」「効くと思って動物で試したが、動物が死んでしまった」「人間で試したが効果がなかった」などがたくさんあるからです。

「人間で試した」というと聞こえが悪いのですが臨床試験といって厳密なルールで運用されています。
被験者・患者が不利になることなく、患者の場合はうまくいけばもう治療法がないと思われたところを効果が出る可能性もあります。
危険性があれば即座に中止されます。
なので昔の戦争中にあったといわれているような人体実験とは全く異なりますが、リスクは0ではありません。
(ページ末に臨床試験のルールについて参考情報を記しました)

まとめるとこんな流れになります。

成分の特定 (効くかもしれないものが11,000個もあった!)
 ↓
試験 (どのくらい飲めば効くのかな?どのくらい飲むと危険なのかな?を試してみたら数個しか残らなかった!) 
 ↓
薬の承認 (ここまで15~17年かかって、ようやく1個だけ薬として使えることになった!!)


可能性のある物質の特定から試験までの間に様々な論文が出ますが、そのほとんどは”実際の治療に直接結びつかない”ということになります。


なので薬として世に出るまでの途中の論文を根拠にした薬まがいのものは、”ほとんど効かない” または ”危険”ということになります。
”このくらいの量を飲めば効果があって、しかも危険性もほとんどない”というものは試験で初めて解ることで、これらをクリアしたものは正式に薬として使われるようになります。


業者は「それは西洋医学であって、東洋医学では...」などと言いますが”安全で効果がある”ことが確認されることが重要で、それには東洋も西洋もありません。

「承認されるまでに時間とお金がかかるので薬が高額になってしまう。その部分を省いてお安く提供している」などと言う業者もありますが、安全性と効果が認められたものだけが薬として使えるのです。そこに到達できないものは”効果がない または 危険”である可能性が大でしょう。


なので、ガンチイサクナール成分の入ったナオルワカメ由来の薬まがいなど、まったく効果が期待できないばかりか時として危険ですらあるのです。



P.S.
多くのがん患者が代替医療を実践していることはよく存じています。
自分自身がん患者なので「後で後悔しないようにできることは何でもやっておく」という心情も解ります。(私は病院での治療しかしていませんが)
この記事を読まれて、もし自己を否定されたように感じた患者さんがいらっしゃれば申し訳ありません。でもそういった主旨は全くありません。
ここで主張しているのは患者さんの行為への批判ではなく、患者の弱みに付け込んで”まがい物”を売りつけようとする業者の画策についてです。
ご理解いただければ幸いです。



追記;

[成功率について]

上記の成功率についての資料があまりにも古すぎるため、もう少し新しい資料を追記します。
1万分の1どころではなくもう2万分の1までいっているのですね。

■ 下記、日本製薬工業協会の資料によれば2003~2007年の成功率は21,677分の1だそうです。

「革新的な新薬は長い道のりを経て生まれます」pdf
http://www.jpma.or.jp/about/issue/gratis/tomorrow/pdf/tomorrow2010_4.pdf
「基礎研究から承認・発売までには、9 〜 17年の年月と 多額の研究開発費が必要です。しかも、くすりの候補として 研究を始めた化合物が新薬として世に出る成功確率は 2 万 1 6 7 7 分 の 1 と い う 難 し さ で す。
出典:製薬協 DATA BOOK 2009」

■ 下記、厚労省資料によれば2007~2011年の成功率は27,090分の1だそうです。

「医薬品産業ビジョン2013」(資料)
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/shinkou/dl/vision_2013b.pdf
P.20 15.新薬開発の成功率(累積成功率)


[臨床試験について]

臨床試験の参考情報;
日本製薬工業協会のサイトより
「治験はGCP※といわれる厳しい規準に基づいて実施されます。
※GCP : Good Clinical Practice 臨床試験の実施基準」
http://www.jpma.or.jp/about/issue/gratis/guide/guide12/12guide_06.html





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クローヴ

論文ではなく「個人のブログ記事」だった…最悪ですね(^^;
私のがん治療はこれからとなります。
効くというものには興味がありますが、金儲けのいんちきには
ひっかからないようにしなければ…。
当面は病院での治療に専念したいと思います。
by クローヴ (2013-08-09 10:35) 

ふじくろ

>>クローヴさん
「なんちゃって論文」は、いかにもそれらしいようなことが書かれているので、騙す気満々です。(; ̄ー ̄A
これから治療なのですね。種類は違うかもしれませんが、まさかの同じ病気で驚きました。(*_*)
もうすでに頑張っている方に「頑張って」とは言えませんが、スムーズに治療が進みますように。
by ふじくろ (2013-08-10 10:59) 

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